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大阪地方裁判所 昭和51年(行ウ)7号 判決 1979年4月17日

甲事件原告(以下単に原告という)

廣川恒鬼

甲事件原告、乙事件原告(以下単に原告という)

羽藤博鬼

原告ら訴訟代理人

松井清祐

甲事件被告、乙事件被告(以下単に被告という)

枚方市長

北牧一雄

被告訴訟代理人

谷口進

主文

一  甲事件について

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

二  乙事件について

原告羽藤博鬼の請求を棄却する。

訴訟費用は同原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

(一)  甲事件について

原告らと被告との間で、被告が昭和四一年一二月一六日指定番号第一〇八三号をもつて、枚方市須山町九七五番一二にした幅員二ないし四メートル、全長約120.5メートル(別紙図面中赤で塗つた道路部分)の道路位置指定処分(以下本件処分という)が無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

(二)  乙事件について

原告羽藤博鬼と被告との間で、被告が昭和五〇年八月一日付枚方市達第七号で同原告にした別紙目録記載の建築物に対する除却命令(以下本件命令という)の発付処分が無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。<以下、事実省略>

理由

一原告羽藤博鬼が本件処分の無効確認を求める訴の利益について<省略>

二原告らの本件処分の無効確認を求める請求について判断するについて必要な事実について

(一)  本件請求の原因事実中、(二)ないし(四)の各事実は当事者間に争いがない。ただし、原告羽藤博鬼の本件土地の使用権限をのぞく。

(二)  <証拠>を総合すると次のことが認められ、<証拠判断略>。

(1)  訴外住友金属鉱山株式会社(以下訴外会社という)は、昭和四〇年八月ころ、枚方市大字中宮九七五番一、雑種地六、三九五平方メートルを買い受け、ここに採石場から出る「ずり」(岩石と石のまざつた山土)を投棄し、その上に他から正土を運んで埋め、宅地に仕上げた。

(2)  訴外会社から委任を受けた訴外協同土地株式会社(以下協同土地という)は、昭和四一年四月ころからこの土地を分譲宅地として売り出したが、そのため、四メートル幅の私道をとり、いずれもこの私道に面した五八の区画(①ないしブロツク、ただし4と9のつくブロツクはない)に分けた。

この私道は、これに面した各ブロツクの土地の買受人に共に売却されることになつていた。

(3)  協同土地は、昭和四一年三月ころ、この分譲土地の一隅に、須山荘園分譲地区案内図という看板(検乙第三号証参照)を立てたが、それには分譲地の道路の位置、各ブロツクの番号、面積(私道部分を含んだもの)、売価が図示された。

(4)  協同土地は、同年七月ころまでには、私道部分に下水、上水の施設工事をすませ、宅地部分を私道より高くして分譲地の造成工事をほぼ終えた。

(5)  原告羽藤博鬼は、今治市桜井甲一四九二番地で内科の開業医をしていたが、昭和四一年五月二二日ころ、協同土地の世話で、大阪府松原市天美所在の造成地を二一四坪購入した。

(6)  同原告は、同年七月末ころ、協同土地の紹介で須山荘園分譲地のことを知り、同月三一日下見にきた。

原告は、このとき前記立看板をみたし、私道が設けられていること、分譲される区画と私道との関係を実地に見分した。

同原告は、将来診療所を建てる用地とする目的で、同年八月一日、協同土地の事務所で、の六ブロツク約二五八坪(本件土地)を金七四五万円で買い受けることにし、同日手付として金一〇〇万円を売主の代理人である協同土地に差し入れた。

同原告は、同年九月二八日残額金六四五万円を協同土地に完済した。

このとき、同原告は、本件土地の移転登記手続がおくれることを諒承した。

(7)  訴外会社は、同月二〇日大阪府知事に対し私道部分について道路の位置の指定の申請手続をした。

この申請書には、訴外会社が所有者として記載されている不動産登記簿謄本、道路位置指定申請図などがその必要書類として添付された。

(8)  大阪府知事は、同年一二月一六日申請どおりの道路位置指定処分(本件処分)をしたので、訴外会社は、同月二二日土地分筆の手続をした。

原告羽藤博鬼のための本件土地の所有権移転登記手続は、昭和四二年一月七日にすまされた。

(9)  同原告は、その直後、協同土地から登記簿謄本の送付を受け、本件土地の面積が契約より約一四坪少ないことに気付き、協同土地に電話で交渉したところ、本件土地の東側の土地に家を建てるとき本件土地にそれだけ侵入したことが判明し、約一四坪に相当する代金として金四五万円の返還を受けることになり、同原告は、それで納得した。

このとき、同原告は、本件土地の一部が私道にとられ有効面積が減ることについて、協同土地に苦情を述べ代金減額などの交渉をしたことはなかつた。

(10)  同原告は、昭和四二年一一月本件土地の名義を原告廣川恒鬼に変えたが、昭和四八年一一月になつて本件土地を使用借りして本件土地に診療所を開設すべく、その建築確認の申請手続をした。この申請手続および建築確認では、建物の敷地面積は本件土地の全面積より少ない約五六六平方メートルであり、本件土地の三方には幅四メートルの指定を受けた私道(約二二五平方メートル)のあることが当然の前提になつていた。

原告羽藤博鬼は、この確認に基づいて昭和四九年中に診療所を建築し、今治市からここに転居して内科の開業医をしている。

三本件処分の適法性について

(一)  以上認定の事実から、次のことが結論づけられる。

(1)  原告羽藤博鬼は、本件土地を買い受ける前にも、協同土地の世話で造成された分譲地を購入した経験があるから、本件土地を買い入れるのがはじめてではない。

(2)  同原告は、本件土地を、将来診療所を建てることを目的に購入したもので、単なる転売を目的とした投機のためではなかつた。

(3)  したがつて、同原告は、本件土地に将来診療所を建てることを念頭に、その便利さの観点から本件分譲地を実地見分した結果、本件土地が気に入つたのである。

同原告が昭和四一年七月末ころ、本件分譲地を実地見分したとき、そこには、立看板があり、その立看板に書かれた図面どおり、分譲地の私道と宅地部分とが造成され、本件土地に出入するにはこの私道を利用することが不可欠であり、この私道に道路位置指定がされなければ、本件土地に診療所を建てることも不可能であることが明らかであつた。

(4)  同原告は、この私道が設けられていることを承知のうえで本件土地を買い受けたものであるが、本件土地に面した私道部分が買い受けた土地の面積の中に含まれていることの説明を、協同土地から受けたことの確証はない。

(5)  しかし、同原告は、私道の道路位置指定の申請手続は、訴外会社又は分譲業者である協同土地の方でするものと考え、格別の関心を示さなかつた。

このことは、同原告が、協同土地と代金減額の交渉をしたとき、その減額の理由として、隣地建物の本件土地への侵入はあつたが、本件土地面積の四分の一の面積にもなる私道の負担による本件土地の有効面積の減少が挙げられなかつたことによつて窺知できる。つまり、同原告は、私道の道路位置指定申請手続を誰がしたかを格別詮議だてする必要を感じていなかつたといえる。

このことは、同原告が診療所の建築確認を受ける際、本件土地に有効な道路の位置指定のあることを利益に援用していることによつても裏付けられる。

(二)  このようにみてくると、原告羽藤博鬼は、本件土地を買い受ける際、私道について、大阪府知事に対し建築基準法の規定による道路の位置の指定の申請をしたうえ本件処分をうることは、すべて分譲業者の手でされるべきことを承諾していたとするのが、同原告の意思に合致するばかりか、一般的に分譲地を買い受ける者の意思に合致するといわなければならない。

分譲地を買い受ける者の関心は、分譲地の面積の中に私道部分の負担がどれ位あるかということであつて、道路の位置の指定の申請手続が誰の名義で誰がしたかではない。すなわち、分譲地には道路位置指定のされた私道がなければ全く利用価値がないのであるから、各人が自分の土地の一部を出しあつてそこに私道を設け、互いにこの私道を利用してはじめて自分の購入した分譲地の一区画に家を建てることができるのである。本件もその例外ではない。

したがつて、分譲地の一区画を購入した者が、私道の負担が多いため予定していた利用が困難であることが判明したような場合には、売買契約の解除、代金減額請求などの法的手段によつて分譲業者と買受人との間で法的に解決されるべきであり、それは道路の指定の申請手続の問題ではない。

(三)  そうしてみると、原告羽藤博鬼は、本件土地を買い受けた際、道路の位置の指定の申請手続は、分譲業者である協同土地にまかせたとするほかはない。

したがつて、このことは、同原告が本件土地の所有権を取得した時期が、売買契約が締結された昭和四一年八月一日か、代金が完済された同年九月二八日か、登記手続のあつた昭和四二年一月七日か、ということと無関係である。

(四)  むすび

以上の理由により、本件処分には、原告らが主張するような無効事由はないといわなければならない。つまり、原告らは、道路位置指定申請に建築基準法施行規則九条に定める土地所有即ち原告羽藤博鬼の承諾書が添えられていなかつた違法があると主張しているが、同原告は本件土地のうち私道部分について協同土地においてその道路位置指定申請をすることを承諾し、まかせていたのであるから、同原告の承諾書が添えられていなかつた形式的、手続的な瑕疵は、本件処分を無効とするものではないことは多言を必要としない。

四本件命令の無効確認請求について

本件処分が無効でないことは前に説示したとおりであるから、本件処分が無効であることを前提とした本件命令の無効確認請求は失当として棄却を免れない。

五むすび

原告らの本件処分の無効確認請求、原告羽藤博鬼の本件命令の無効確認請求は、いずれも失当であるから棄却し、訴訟費用は敗訴者に負担させることとしたうえ、主文のとおり判決する。

(古崎慶長 井関正裕 西尾進)

別紙目録、図面<省略>

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